DevOpsが作り出す、マズローの「欲求段階説2.0」

企業の成否はソフトウェアにかかっていると言われて久しいですが、
2020年にはDevOpsが企業の命運を左右する時代が到来するでしょう。

「マズローの欲求段階説」のことは、皆さんもご存じでしょう。私たち人間の基本的な欲求をピラミッドのように並べると、最下層に食べものや飲みものなどの生理的欲求があり、そこから上に向かってコミュニティー、社会的な交流、自己実現や創造性へと段階が上がっていきます。おそらく、これは誰でも直感的に納得できるものであり、また、文化や地域が違っても、この段階は人類におおむね共通しています。

しかし、今の世の中に目をやると、マズローの言っていることは的外れになりつつあるようです。もしくは、マズローが考えたピラミッドでは補い切れない部分が出てきたと言った方がいいのかもしれません。なぜかと言えば、この世界は現在かなりの部分がデジタルによって支配されているからです。もちろん、マズローもこんな変化が起こるとは予測していなかったでしょうし、欲求のピラミッドを考案するときも今日のようなデジタル社会の到来を念頭に置いていたはずもありません。

 

たとえば、スマートフォンのバッテリー残量がわずかになると、私たちは慌てます。社会を動かしている電力網が私たちのあらゆる営みの生命線になっていて、早い話、電気がなかったらどうやって生きていくのか途方にくれるほどです。これほど不可欠な要素が、当然ながらマズローの考えたピラミッドには含まれていません(なにせ、発表されたのは今から75年も前ですから)。それでも、世界規模のデジタルトランスフォーメーションを目の当たりにしている私たちからすれば、これが間違いのない現実です。

 

電気を加えたこの図式を「マズロー2.0」と呼ぶことにすると、そのすぐ上に来るのが「コネクティビティ(接続性)」でしょう。地球上には、インターネットにつながっているデバイスが何十億も存在します。5G技術が普及すれば、接続速度は今の10倍から100倍になると言われています。特に中高生は、街なかで「Wi-Fiのパスワードは?」と、真っ先に接続環境について聞くのが今や当たり前になっています。私たちは、ネットワークでつながれた世界の中で生きているのです。マズローのピラミッドには含まれていませんが、「コネクティビティ」の必要性がいかに重要か、今を生きる私たちには実感できるはずです。

 

それにしても、「コネクティビティ」がこれほどまでに必要とされるのはなぜでしょうか。これは、単に多くの人やモノがオンラインでつながっているという話ではありません。今日、必要とされているのは安全で最新、途切れることなく確実に配信される常時接続型のアプリケーションです。スマートフォンのアプリを見ただけでも、ソフトウェアが水と同じくらい、日常生活のどこにでも広く行き渡っていることが分かります(こういうテーマの本も出ているくらいです)。そう考えると、ソフトウェアというものが、マズローの考える「他の人たちとのつながりに必要なあらゆること」を支える手段になっていることは間違いありません。家族との接し方、友人同士のつき合い方、自分自身や社会的立場について感じていること。働き方や遊び方。それらのすべてにソフトウェアが大きく関わっており、また、そうしたソフトウェアには継続的なアップデートと可用性が求められています。

 

この点にこそ、DevOpsがマズロー2.0のピラミッドの根幹である理由があります。DevOpsがスマートフォンを動かしているとまでは言えないまでも、電力網の稼働には大きな役割を果たしていると言えるでしょう。DevOpsがネットワーク自体を作り出しているとは言えないかもしれませんが、ネットワークを動かすためのソフトウェアには大きく関わっています。DevOpsはいずれ、現在から将来にわたって複雑につながり合ったこの世界で動く、あらゆるソフトウェアを左右する存在となる可能性があります。

 

それらを踏まえ、2020年までにDevOpsは「世界を支配」せんとするソフトウェアに対する考え方を根本から変えるだろうと断言できます。これは誇張でも何でもありません。これまでに集められたデータの解析から導き出された根拠のある予測です。そして、この概念を具現化する上でマズローのピラミッドは格好のモデルとなってくれました。

 

この予測は、5,000近いJFrogユーザーの声からも裏付けられています。JFrogのクラウドやソリューション事業のパートナーのうち数社とは、定期的な会合も開いています。そうした対話の中から、未来の形がはっきりと見え始めています。

 

では、ユーザーやパートナー企業からは、どんな声が届いているのでしょうか。そもそも、この業界が健全なカオスのまっただ中にあることは疑いの余地がありません。決まっていないことは山ほどあり、DevOpsの考え方も実装方法も、まだ大きい変化が始まったばかりです。それでも、私たちはマズロー2.0モデルの完全な実現に向けて、すでに動き始めています。

私たちJFrogは、2020年末までに業界で以下のことが現実になっていると考えます。

 

DevOpsが「継続的なソフトウェアアップデート」という重大な問題を解決する手段として認識される

問題はもう、開発現場の文化的な変化とか、ニッチなツールについての議論にはとどまりません(それも、もちろん大切ですが)。私たちが思い描くマズロー2.0モデルでは、あらゆる取り組み、感じ方、行動、開発の中心に位置するのがソフトウェアです。ソフトウェアは、技術的な関心の枠を越えて社会的な重要性を持つようになります。エッジデバイスだろうとゲートウェイだろうと、いつでもどこでも継続的で積極的なアップデートを提供できるかどうか、それがDevOpsの「成否」を決定づけます。世界中の至るところで人はソフトウェアを消費しており、増加の一途をたどるソフトウェアは常にセキュアで最新、透過的でなければなりません。ソフトウェアの継続的なアップデートが、世界を制するのです。

 

DevOpsの市場は現在(推定140億ドル)の5倍以上になる

こう言える根拠は何か。それは、大手企業の動向を見ればわかります。トレンドの最先端を行く、リーディングカンパニーからも直接、そういう話を聞いています。実際、2018年の2四半期だけでもMicrosoftやIBMによるRedHatやGitHubなどの買収案件額は600億ドルを超えました。さらにMicrosoftは、同社の主力製品についてDevOpsを意識した名称への変更を進めています。Google Cloudなどグローバルな影響力を持つ企業でも、年商60億ドルを稼ぎ出したCEOをはじめ、これまで実績をあげてきたリーダーたちがその職を退いています。いずれも、一時の気まぐれな動きではなく、地殻変動のようなものです。こうした大手企業が、現在は年間140億ドル程度の市場のパイを奪い合うために巨額の資金を投じているとは思えません。買収劇にしても人事異動にしても、この市場の成長がこれからだと考えられている証拠です。IoTの進展や「Developer-to-Device」の動き、それらを支える数十万から数百万人とも言われるTAM(テクニカルアカウントマネジャー)の存在からは、巨大な成長への兆しの一端が見え始めています。

 

ハイブリッドが勝利する

極論を語るつもりはありませんが、これが大胆な予測であることは確かです。わずか3年前、Amazon AWSやMicrosoft Azureなど、今日もクラウド業界をリードする大手企業たちは、あらゆるものがパブリッククラウドに移行しオンプレミスは絶滅すると語っていました。ところが現在、私たちはVMwareやCiscoなどとのパートナーシップによるクラウド企業の「ハイブリッド」展開を目の当たりにしています。ここでも、その動きは未来の姿を示しています。ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの製品が勝利し、ベンダーには開発者に選択の自由を与えることが求められる。そしてそれ以外のものは、すべてニッチもしくは不完全な存在になっていく、と。

 

大切なのはスピードとセキュリティ、その2つだけに

この2つはDevOpsの要であり、継続的なアップデートを実現する上で2020年には等しい重さで共存しています。スピードがあってもセキュリティに欠ける企業は、データ漏えいや配信障害、顧客の喪失といった問題を引き起こすでしょう。セキュリティが万全でも、配信に1日以上かかる企業は市場で後れをとることになります。スピード/アジリティとセキュリティを備えたソリューションを提供できる企業が、あらゆる面で勝利するのです。

 

ベストオブブリードとエンドツーエンドのどちらも勝者に

世界には現在、3,500万もの開発者がいますが、その数は2020年に至るまでさらに増え続けます。そしてこれまでも言われてきたとおり、開発者がますます主導権を握りつつあります。長い時間をかけて選択権を手にした開発者の間では、ベストオブブリードのアプローチが効率的であると認められてきました。唯一の問題は、最高のジョブに適した最高のツールも管理と保守は厄介であり、スケーラビリティに欠けるということです。そのため、ベストオブブリードのアプローチを避け、エンドツーエンドのプラットフォームを採用する企業もあります。選択肢は少なくありませんが、エンドツーエンドのプラットフォームを選択する場合、将来性や選択の自由は限定されます。では、どうすればいいのでしょうか。選択の自由があり、オープンREST APIにも対応して、ベストオブブリードをそのまま統合できるうえに、市場の膨大なソフトウェアパイプラインをユニバーサルにサポートし活用できるソリューションこそが、勝ち残るだろうと筆者は考えています。ポイントは、「OR(どちらか)」ではなく「AND(どちらも)」ということです。

 

私にとって、そしてJFrogの全員にとって、これが「DevOps 2020」の姿です。

1943年、マズローが人間の必要、願望、欲求、社会規範を分類するという偉業を成し遂げた当時の世界は、今とまったく様子が違いました。そしてDevOps 2020という革命が、マズロー2.0時代の幕を開けようとしています。そこでは常時接続されたソフトウェアの流動的で継続的なアップデートが、新しい欲求のコアとなります。というよりソフトウェアが人間の基本的欲求の、まさに基盤になると言っても過言ではありません。ソフトウェアは食べものでも飲みものでもありませんが、私たち人間はもはや、ソフトウェアなしには食べものや飲み水を作り出すことも、住む家を持つこともできなくなってしまいました。

 

では、DevOpsは現代を生きる人類文明にとって、新しい福音となるのでしょうか。

やや高邁すぎるかもしれませんが、この道の先に待っているものに期待をかけてみませんか。

お客さまやパートナーの皆さまとともにこの道を歩み、DevOpsが未来の世界で果たす役割をこの目で見られる日を、私は心待ちにしています。

 

未来に向けて
Shlomi